orl.wakayama-med 2.0

和歌山県立医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科

抄読会;平岡 Bacterial charity work leads to population-wide resistance

Bacterial charity work leads to population-wide resistance
http://www.nature.com/nature/journal/v467/n7311/abs/nature09354.html

抄訳;
「細菌の慈善活動が個体群全体の耐性を誘導する」

抄録:
細菌は抗菌薬治療に直面すると驚くほどの順応性をみせる。薬剤特定の作用部位または、全体的なストレス反応における対立遺伝子が、最終段階の分離株で同定されてきた。しかし、抗菌耐性株の発生における個体群の力学は、あまり知られていない。今回我々は、大腸菌を持続培養し、増加する抗菌薬レベルに晒した所、分離菌の大部分は個体群全体より耐性化していなかったことがわかった。活発に増殖しストレスを受けていない細胞によって生成される、シグナル分子であるindoleを産生することで、極少数の高度耐性菌が、個体群全体の、より耐性度の低い個体の生存を改善することもわかった。転写プロフィールを通して、薬剤排出ポンプと酸化ストレス防御メカニズムを励起するため、indoleが供給されることも示す。高度耐性菌にとってindole産生が”適正費用”であるとともに、全ゲノム配列解析によって、細菌の利他主義が、indole産生に関係しない薬剤耐性変異によって実現していることがわかった。この働きは、1つの血縁選択で構成される個体群レベルの耐性機構を確立する一方で、少数の耐性変異株は、彼らにすこし費用をかければ、他のより脆弱な細胞を守ることができ、ストレス状況下で個体群全体の生存能力を強化する。

本文:
薬剤耐性菌は持続的に増加し、その有病率増加は意義深い臨床的社会的挑戦を困惑させている。耐性変異の機能的な解析と、変異による耐性に関与する内因的な過程の研究は、価値のある洞察を与えてきた。しかし、個体群力学と、変異を通じた耐性に基づいた集団間の相互活動は、しばしば見落とされる。これらの無視されてきた側面を研究するために、我々は細菌集団がバイオリアクターの中で薬剤耐性を獲得する様子を追った。

野生株の大腸菌、同質遺伝子系統を手始めに、我々は、norfloxacin濃度を徐々に増加させた個体群に継続的に挑んだ。巨大な個体群維持しながら進化的圧力をかけるため、抗菌薬濃度は60%以上の増殖が抑制されるように選択された。我々はこの濃度をMIC(最小発育阻止濃度)と定義した。24時間ごとに個体群MICが決定され、norfloxacin濃度は耐性用量内で調整された。日々の検体から12の分離株が無作為に選ばれそれぞれのMICsが決定された。

集団のMICは通常その構成個体のMICsからは予測されたということがわかった(図1a)。大多数のそれぞれの分離株は、実際は耐性度の低い分離株(LRIs)であり、すなわち、そのMICsが自身が存在する周りのnorfloxacin濃度より低く、故に、集団のMICよりも低い分離株となる。興味深いことに我々はまた、バイオリアクター濃度よりも高いMICを持った変異株、高度耐性株(HRI)を分離した。我々のがHRIをめったに検出できなかったのは、実験のほとんどを通して個体群の中での存在量が少なかったことに起因する。確かに、我々がnorfloxacinを選択するうえで、日々の個体数を測定するときに、しばしば低用量のHRIを検出し、それは集団のMICが上昇する前に現れていた(図1b)。しかし、我々は多数のLRIsが個体群の中にあることに驚いた。極少数のHRIsは無数のLRIsにとっての利益を生む出していた、すなわち、より弱い分離株達が、自分たちだけで耐えうる以上の抗菌薬ストレスにも、耐えられるようにしていたと、考えた。HRIsで調整された培地は、LRIsにとって妥当な防御体制であると思われる。この仮説を確かめ、引き起こされている環境を調査するために、我々の採取し得た最高の耐性度をもったHRI、c10,12(第10日に単離されたコロニー番号12)の研究に注力することにした。norfloxcin存在下で増殖させた後のc10,12から取った上清が蛋白ゲル電気泳動で分析された。我々は培地に存在するいくつかの弱いタンパク質のバンドに混じって、強い蛋白のバンドを検出した。つぎに、観察された蛋白のバンドをそれぞれ同定のため、質量分析にかけた(補足、表1)。優勢な蛋白のバンドは、TnaAと同定された(図2a)。TnaAの同定を検証するため、相当する遺伝子変異c10,12⊿tnaAを作成
し、抗菌ストレスをかけて増殖させた後、上清の中の蛋白を分析した。実験結果のゲルには、優勢なバンドは一切みられなかった。また、同じ第10日に単離された最小耐性度のc10,6株でも、同じことが言えたことを確認した。次にサンガー法を用いて、c10,12のプロモータとtnaオペロンをコードする領域が、機能獲得型変異を受けていないことも検証した。tnaA酵素、tryptophanaseをコードしており、その主な酵素反応はトリプトファンアンモニアとピルビン酸とインドールに分解することである。

重要なことに、インドール大腸菌におけるストレス耐用に影響を与えるシグナル分子である。我々は、HRIsが産生したインドールが、より耐性度の低い隣人たちを守っていると仮定した。これを確かめるため、まず、高圧液体クロマトグラフィーを用いて、c10,12(HRI)とc10,6(LRI)そして野生株がそれぞれ産生する細胞外のインドールを定量した。抗菌薬ストレスがなければこれらの分離株は約300μMまでのインドールを産生することができた(図2b)。しかし、抗菌ストレスの下ではc10,12のみがインドール産生を維持できただけであった(図2b)。tryptophanase変異株のc10,12⊿tnaAからは、インドール産生は検出できなかった。

次に、抗菌ストレス下のLRIに対する細胞外インドールの防御効果を決定したいと考えた。培地にインドールを加える時と加えない時の、第10日の最小耐性度の分離株であるc10,6の、norfloxacinのMBC(最小殺菌濃度)を決定した。加えられたインドールは、明確に、薬剤ストレス下の生存利益を提供していた(図2c)。インドール不在のときc10,6のMBCは800ng/mlであり、これは第9日のバイオリアクター濃度(1000ng/ml)がこの分離株を殺菌するのに十分であることを示している。インドールの添加により、c10,6のMBCは1400ng/mlに上昇し、これは、インドールの効果が、他の多くの分離株が第10日のバイオリアクター濃度(1500ng/ml)で生き延びたことの説明になっている。上清から同定された他の蛋白生成物がHRIsが提供する防御効果に貢献している可能性もあるが、それにはさらなる研究が必要だ。まとめれば、我々の実験結果は、集団間で利他的な相互作用を起こす、妥当な体系があることを示した。HRIは、一つには、インドール産生を通して培地を調整し、より弱く、脆弱な分離株に利益を与えるのだ。

この想定される防御集団相互作用を調べるため、我々は、3つの分離株--LRI(c10,6)、HRI(c10,12)、インドール欠損変異株(c10,12⊿tnaA)で、抗菌ストレス下での増殖を比較した、単離および、混合培養で。上に示した結果を元に、c10,6が優勢な個体群は、少数派のc10,12に守られ、この防御効果はインドール欠損変異株c10,12⊿tnaAでは消失すると推論した。注目すべきは、分離では、c10,12⊿tnaAは、c10,12より大きくなったことだ。同じように、二つの分離株の比率を最初は等しくした競合阻害試験においても、c10,12⊿tnaAは、c10,12を打ち負かし相対比は2.6:1(c10,12⊿tnaA:c10,12)に至った。これは抗菌ストレス下のインドール産生が、fitness costを持っていることを示す。混合培養実験では、我々はc10,12が1%に対してc10,6が99%の1:100(1 in 100)希釈溶液を選択し、低用量HRIsを再現した。図2dに示すように、c10,6とc10,12の混合物は、それぞれ個別に単独培養した時よりより増殖した。これは、c10,12が産生したインドールは抗菌ストレス下のc10,6の生存能力を高め、c10,12単独の増殖量をこえた増殖を後押しした。対照的に、c10,6とc10,12⊿tnaAの混合物は、c10,6単独の増殖量をほんのすこし高めただけだった。そしてこの軽微な増加は、全くもってc10,12⊿tnaAの増殖によるものだった(補足情報)。

次に、我々はゲノム規模での転写プロフィールを用いてインドールの生理学的な役割を調べることにした。野生耐性菌のインドール欠損変異であるMG1655⊿tnaAを、初回のバイオリアクターでのnorfloxacin濃度(50ng/ml)で、中等度のインドール濃度(200μM)を添加し、その全転写産物を測定した。バラバラに発現した遺伝子を選別しながら、インドールの転写の特徴を作成した。我々の分析では(補足情報および補足、表2)、インドールはmdtE(P=0.026)などの多剤efflux pumpの上方制御させ、astDの転写上昇に伴うコハク酸エステルの産生を増加させた(P=0.025)。我々の分析ではまた、細胞内酸化ストレスのsmall-RNA sensorであるoxySを下方制御した(P=0.004)ことが示された。また殺菌性の抗菌薬を介した細胞死に共通する機構の中心となることが既に示されている、iscUの下方制御によって、鉄‐硫黄クラスターの修復や産生が減少しているのを観察した(P=0.022)。一酸化窒素経路もまた、nsrRの下方制御と、それに対応する一酸化窒素解毒遺伝子のhmpの上方制御によって活性化した。これらの結果は、インドールが2種類の抗菌解毒作用、物理的な排出と、酸化ストレス防御機構の活性化を誘導することを示している。

最後に、我々はHRIsのなかの変異、さらに広範囲に、進化する個体群に現れる変異を調べるため、全ゲノム配列解析を行った。第8日から10日のHRIsと、第10日の1つのLRIを選択した。また、参照するため、最初の野生株の配列解析もおこなった。我々は最初の野生株にはみられない、5つのSNPsを同定した(図3a)。期待通り、それぞれの耐性株は既知のnorfloxacin標的である、gyrBでコードされるDNAジャイレースのサブユニットで変異を起こしていた。これらの変異株はまた酸化還元酵素を全般的に保護しているyciWにSNPが見られた。この2つの変異はすべての進化した変異に共通であり、進化した分離株は同じ先祖から派生したことを示している。我々はまた、薬剤排出ポンプの第一のレギュレーターであるmarRと、そのパラログであるsoxR(このレギュロンは、活性酸素から細胞を守る)に変異を同定した。最後に、norfloxacinに高い特異度をもる排出ポンプ、mdtKのプロモータに変異を見つけた。これらの変異はインドールの産生とは関与しないが、その代わりに、ストレス下のインドール産生を維持するのに必要な薬剤耐性の水準を供給している。

我々の進化実験でそれぞれの変異の出現と定常化を追跡するため、質量分析を用いてそれぞれのSNPにおける対立遺伝子の頻度を確定するため、日々の個体群の遺伝子型(解析:平岡注)を行った。微小な検体量でのSNPsの検出を最大化するため、日々の個体群を並行して、すなわち非制限増殖下と、日々のバイオリアクター濃度に応じたnorfloxacinによる選択によって、再現した。この薬剤選択は、HRIsのインドール産生に先行し、それ故、低用量、高耐性度個体群を補強させた。図3bに示すように、yciWとgyrBにおける変異は、2日までに高度耐性化群において、同時に現れた。この2つのSNPsを起こした変異株は、おそらく最も早期のHRIsであり、インドール産生を通して集団のMIC増加を触媒した。第8日のHRIで見られた、切り詰められたmarR対立遺伝子は、対立遺伝子検索でも検出できないくらい希少で、低用量HRIが、多様性のある個体数をもつことを物語る。第9日には、変異はsoxRとmdtKに広がった。全個体数の中で、soxR変異はmdtK変異より多かったが、その量は、薬剤選択によって凡そ平衡に達しており、各々の変異をもった変異株がHRI群の一翼をになっていることを示していた。しかし第10日には、それぞれのSNP量の総量は変化しないにもかかわらず、mdtK変異株は、高度耐性の下位個体群を支配し始め、soxR変異株はより耐性度の低い下位個体群へと追いやられた。この耐性変異株の盛衰は、環境が表現型が多岐に渡る個体群を支えていることを示唆した。

我々の結果は、個体群に基づいた薬剤耐性機構(図4)は細胞シグナル分子であるインドールに起因していることを規定した。ストレスがない時、大腸菌の個体群は繁栄し、当然代謝産物のインドールが滲み出してくる(図4a)。しかし深刻な抗菌ストレスの下では、死んだあるいは死にかけの細胞は、もはや有意なインドール産生をしない(図4b)。薬剤耐性変異株は、一度現れると、インドールを産生するfitness costを我慢し、様々な抗菌耐用機構を誘導することでより脆弱な細胞を守る(図4c)。

インドールが様々な抗菌薬を防御することを理解し、我々はこの個体数に基づいた抗菌機構が、他の抗菌治療への反応の中でも発生するのではないかと考えた。この仮説を試すため、バイオリアクターの実験ももう一度行い、今回は、アミノグリコシドであるゲンタマイシン濃度を増加させ暴露した大腸菌を、持続的に培養した。norfloxacinの実験と同様、それぞれの分離株が個体群全体よりも低い耐性をもち、極少数の高度耐性変異株が現れ、集団のMICに先んじて変化することを知った(補足、図1a,b)。第7日の分離株をさらに調べると、抗菌ストレス下で、HRIが高濃度の(>300μM)インドールを産生可能である一方、LRIは不可能であったことを立証した(補足、図1c)。これら2つの分離株の混合培養では、個別の培養よりもより活気ある増殖が見られ、これはより脆弱な分離株が生存能力を高めたことを示した(補足、図1d)。この結果より、図4に描かれた個体群での耐性機構は薬剤特異的ではないこを示唆する。

この仕事は、抗菌ストレス下で少数の薬剤耐性変異株が、代謝産物であるインドールを、fitness costを我慢して産生し、個体群の中で共有することで、より耐性度の低い分離株を抗菌的な障害から保護することを示している。この利他主義はより弱い構成員を生き延びさせると同時に、利得のある変異の余地を探させるという、血縁選択の性格に似た現象を導く。ストレス過多の環境下で、個体群すべての生存能力を強化することで、これらの極少数の薬剤耐性変異株はまた、ストレスが一時的なものであったとして、個体群がその遺伝的起源に戻る潜在能力を温存する手助けをするのかもしれない。薬剤耐性を監視し、薬剤耐性と戦う事は、これら種々の方法に分散された生存戦略と他の形態の最近相互協力によって複雑化している。細菌を使った政略的な細胞内情報伝達のレパートリーに対する、さらなる探求が、増加する耐性菌感染の驚異を前にして、効果的な臨床介入への合理的なデザインが、決定的に重要な意味をもつことがわかるだろう。

方法要約:
我々はすべての実験を大腸菌MG1655(ATCC 700926)を起源とした株で行った。tnaA欠損変異株はP1形質導入で作られ、大腸菌single-gene knockout libraryから派生した。バイオリアクターでは大腸菌は1時間あたり0.48の希釈率で培養された。MICsとMBCsは標準的な方法で求めた。蛋白はSDS-PAGEで分離し、質量分析で同定された。細胞外インドール量は高圧液体クロマトグラフィーで定量化した。競合阻害実験は持続培養で行われ、相対率はMalthusian変数で測定された。転写プロフィールは先に述べられた方法でおこない、FARMSで正規化された。全ゲノム配列解析はSolexa GA2のcustom adapterを用いて行なった。対立遺伝子頻度は、SequenomのiPLEX chemistryを用いて、matrix-assisted laser desorption/ionization-time of flightの質量分析によって確定した。